禁煙推進学術ネットワーク


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理事長挨拶

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喫煙による膨大な健康被害と禁煙推進の重要性−「喫煙は病気、喫煙者は患者」―

喫煙はニコチン依存症という病気で、保険診療も可能となっています。喫煙者数は現在、わが国で2千万人以上(成人平均喫煙率19.3%、男32.2% 女8.2%)、世界で約12億5千万人です。この病気はニコチン依存症としての精神科領域から脳・心・血管疾患、肺癌・COPD等の呼吸器疾患、食道癌・胃潰瘍等の消化器疾患、喉頭癌等の耳鼻咽喉科疾患、口腔癌・歯周病等の歯科疾患、さらに小児科領域、産婦人科領域、麻酔科領域、皮膚科領域、眼科領域、泌尿器科領域等全身に膨大な健康被害をもたらします。生活習慣病のリスクファクターとして、高血圧症、脂質異常症、糖尿病等がありますが、日本人のがんを含む全死亡に占めるリスクの程度は喫煙が一番高くなっています。喫煙関連疾患による推計死者数はわが国で約13万人/年であり、世界保健機関(WHO)よれば世界全体の死者540万人/年で今後ますます増加し、20年後には800万人/年となり、21世紀中に累計約10億人(20世紀の10倍)が死亡すると推計されています。また、受動喫煙によるわが国の推計死者数は約15,000人/年となっています。喫煙による死者は禁煙先進国である欧米では近年減少しているのに対し、死者の増大は禁煙後進国であるわが国や発達途上国で起きています。さらに、損失コストはわが国だけで約6兆4千億円/年であるのに対し、タバコ関連税収は約2兆2千億円/年にすぎず、損失コストの方が3倍も多くなっています。これらの被害は禁煙により防ぐことができるので、WHOの指摘のように、「喫煙関連疾患は予防可能な単一疾患としては最大の病気であり、禁煙は、今日最も確実に大量の重篤な疾病を劇的に減らし、国民の健康の維持と莫大な保険財政の節約に寄与する最大のもの」ということになります。しかし一般的には、今なお、喫煙は病気ではなく、「タバコは国が認めた合法的商品」「能動喫煙は趣味・嗜好」「受動喫煙はマナーの問題」「貴重な財源」と考える国民も多くいます。したがって我々医療者はこのような間違った考え方を正すよう積極的に啓発する立場にあることを自覚し、能動・受動喫煙を問わず「喫煙は病気、喫煙者は患者」として高血圧症等の生活習慣病と同じように扱い、また、屋内を全面禁煙化する法律の施行に向けて、能動・受動喫煙に関する問題に正面から取り組むべきであると考えます。



わが国の喫煙問題の特殊性と禁煙推進学術ネットワークの必要性

わが国のタバコ問題に対する政府・行政の対応は矛盾しています。厚生労働省等は健康増進法、ニコチン依存症に対する保険医療、未成年者喫煙禁止法、たばこ規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)等に基づき喫煙の健康被害を抑制するために禁煙を我々医療者とともに積極的に推進しています。逆に、財務省は「たばこ事業法」、「日本たばこ産業株式会社(JT)法」、「たばこ耕作組合法」に基づき、税収確保のための国策会社であるJTとともにタバコの生産・販売・を保護し、タバコ産業を擁護しています。欧米等ではこのような国政の矛盾はなく、国は禁煙を促進し、独立した民間のタバコ会社がタバコの生産・販売を行っているのが一般的です。すなわち、喫煙問題の対立軸は欧米等の諸外国では国・医療者対民間会社ですが、わが国は厚生労働省・医療者対財務省・JTという構図になり、特異な国と言えます。
このように政府・行政の喫煙に対する基本姿勢が2つに分裂しているために国民はどちらを信頼すべきか迷うことになり、混乱状態の中にいます。そのため、わが国の喫煙問題は複雑で、その解決には、個々の学会の独自の努力が重要であることは言うまでもありませんが、それだけでは解決できない社会・政治問題も多く、喫煙疾患関連に深くかかわる学会全体が協力・連携してはじめて取り組むことができる、あるいは、その方が効果的な問題が多数あります。 
たとえば、厚生労働省に対する「ニコチン依存症の保険診療実現のための保険禁煙治療の医療技術評価希望書(2005年)」「ニコチン依存症管理料の施設基準ならびに算定要件の見直しに関する要望書(2007年)」「財務省・厚生労働省へのたばこ税引き上げの要望(2009年)」「ニコチン依存管理料の算定要件等の見直しに関する要望書(2013年)」や2006年以降の「JR6社に対する新幹線・特急列車等の全面禁煙化、駅構内禁煙化の要望」等がその代表です。2016年の保険診療改訂で実現した禁煙保険診療の若年者への適応拡大は2015年に我々が厚労省側に提出した資料「ニコチン依存症管理料の算定要件等の見直しに関する要望書」が契機となったものです。
禁煙推進学術ネットワークは「禁煙ガイドライン」(2005年)を作成した9学会とそのメンバーが中核となり2006年に発足しました。その後、参加学会が増え、現在、正式に参加している25学会で構成されています。本ネットワークはこれら25学会が協力・連携して禁煙を推進するためのさまざまな情報・施策を、あくまで学術的根拠に基づき、社会に発信するとともに国・自治体・企業・団体等に要望し、さらに喫煙関連疾患の診療・研究や禁煙教育をサポートするユニークな組織です。 
本ネットワークの主旨に賛同していただける新たな学会、特に外科系学会の参加を期待するとともに脱タバコ社会が一日も早く実現することを念願しています。


平成29年1月10日

 

禁煙推進学術ネットワーク理事長
(兵庫県立尼崎総合医療センター院長、岐阜大学名誉教授)
藤原 久義
Hisayoshi Fujiwara